ひきこもり当事者のペースを大切に~一般社団法人いきがいさがし

阪急電車とJRを乗り継いで40分ほどかかる西宮名塩駅。私がこの駅に降り立つたびにすることは、透き通る空気をめいっぱい吸い込むことです。そして駅前の商業施設を少しぶらつくと、どこかその風景にリラックスしている私に気づきます。決して人通りが多いわけでもない郊外の駅。そこに程近い場所にある一軒家が、私たちグループの伴走支援団体である一般社団法人いきがいさがしの拠点です。

いきがいさがしは、ひきこもり当事者の居場所づくりや家族の支援をされている団体です。ひきこもり当事者の「居場所」として機能する「地域活動支援センターnecoris」、ひきこもり当事者や家族からの相談業務等を行う「兵庫ひきこもり相談支援センター 阪神ブランチ」、兵庫県各地で行っている「出張居場所こもりす」、ひきこもり当事者もボランティアとして活動する物々交換会「ぐるり」など数多くの事業をされていらっしゃいます。

私たちはおよそ月に一回のペースで、団体の代表である岡本康子さんからお話を伺ってきました。私は今回、いきがいさがしとの伴走支援において印象的だった二つの風景を書き記し、この伴走支援の経験を振り返ってみたいと思います。

「声」を待つ

岡本さんとお会いした初日に印象に残ったことは、岡本さんが私の目をよくみて話してくださることでした。しどろもどろでもはや質問の形式にもなっていないような問いかけに対して、私の目を見ながら返答をくださる姿がありました。正直に告白してしまうとはじめの頃の私は、伴走支援の経験の少なさを見透かされたような気がして、少し恥ずかしい気持ちになっていました。

その感情と異なる感情を見つけたのは、聞き取りの回数を重ねることによってでした。岡本さんは聞き取りのたびにこう語っていました。「ひきこもり当事者のペース、そして彼らがしたいことを大切にしたい」。そのことばをなんども聞くうちに、岡本さんはひきこもり当事者にするように、私が一体何を考え、何を聞きたいのか、すなわち私の「声」に一生懸命耳を澄ませてくださっていたのではないかと思うようになりました。それから岡本さんに会いに行くのが楽しみになった私がいました。もしかしたらいきがいさがしに集うひきこもり当事者も、同じような気持ちなのかもしれない、と想像しました。

一枚の紙につめられた希望

2024年1月私たちはいつものようにお会いして、岡本さんに前回からの一か月で起こった出来事を尋ねました。岡本さんは助成金の申請書を書いている最中だとのことでした。しかしながらいつもよりリラックスした様子にみえました。どうしてだろうと思いながら、申請書を誰と書いたのかと質問してみると、岡本さんは年末みんなでやりたいことを出し合ったと教えてくださいました。居場所が終わったあとに残ったひきこもり当事者といっしょに、今後挑戦したいことなどを語りあったそうです。

岡本さんは、私たちに一枚の紙を見せてくださいました。その紙には参加したメンバーと一緒に出し合ったやりたいことが並んでいました。ひきこもり当事者の一人が書き留めてくれたのだ、と楽しそうに語る岡本さんにつられて、私も嬉しくなりました。

チューニングが合っていくような感覚

以上が、このわずか半年間の伴走支援で私が印象に残った二つの風景です。私はこの経験から、岡本さんがどれだけひきこもり当事者の「声」を大切にされているか、ということを学んだように思っています。この世界ははっきりと思ったことを表現できる人ばかりではありません。これまでの経験によって語ることを諦めてしまった人もいるかもしれない。しかしいきがいさがしは、そんな人たちの「声」の発現を待ってくれる。そういった団体がこの世界に存在していることの社会的価値について気づかされました。

また私にとって、複数回、そして継続的にお話を伺う経験は貴重な経験となりました。お話を繰り返すことによって、普段から少しずついきがいさがしはこう考えていらっしゃるかもしれない、と想像する機会も増えていきました。もちろんその予想が外れることも多々あったのですが、「チューニングが合っていくような」感覚が生じたこともあります。それは私たちが、というよりも、岡本さんが辛抱強く私たちを見守りながら対応してくださったからだと思っています。

この伴走支援を終えてからが、やっと私たちの始まりのような気がします。これからもいきがいさがしのことを教えてもらえたらうれしいです。今回は貴重な機会をくださり、ありがとうございました。

いきがいさがし伴走チームメンバー:冨安皓行(特定非営利活動法人とよなかESDネットワーク